会議室の片隅で静かに役割を果たすデバイス、Lenovo Google Meet Series One Compute Unit。通常、この特殊なPCが、最新のPCゲームを快適に動かす「ゲーミングPC」になるなどとは誰も想像しないでしょう。しかし、一人の技術者がこの常識を覆すべく、その知られざるポテンシャルに挑みました。本記事では、この特殊なデバイスを分解し、カスタムファームウェアを導入して汎用PC、さらにはゲーミングマシンとして活用しようとした、壮大な技術的挑戦の全貌を深く掘り下げていきます。
会議室の片隅からゲームの世界へ?Google Meet専用端末の知られざるポテンシャル
あなたは、この特殊なデバイスが秘める可能性をどこまで想像できるでしょうか?
Google Meet Series One Compute Unitとは?その本来の役割
Lenovo Google Meet Series One Compute Unit(モデル名:GQE50L Google Meet Series 1 Room Kit)は、Google Meetを利用したビデオ会議システムの中核を担う専用デバイスです。企業や教育機関の会議室に設置され、大型のウェブカメラやマイクと連携し、シームレスなオンライン会議体験を提供するために設計されています。その主な機能は、Google Meet会議のホスト、参加、コンテンツ共有などであり、一般的に想像されるような汎用的なPC、ましてや高性能なゲーミングPCとしての利用は想定されていません。
なぜこの特殊PCをゲーミングマシンに?知的好奇心の挑戦
このデバイスが注目されるのは、その内部に一般的なPCと同じくIntel Core i7プロセッサーを搭載している点、そして何よりも、Googleが開発したAIアクセラレータチップ「Coral Edge TPU」を内蔵している点です。この特殊なハードウェア構成が、一部の技術系ユーザーの知的好奇心を刺激し、「この専用デバイスを、本来の用途を超えて活用できないか?」という問いを生み出しました。特に、高性能なAIチップがゲーム性能にどのような影響を与えるのか、という期待は多くの人々の関心を集めることになりました。
内部構造を解き明かす:特殊デバイスの分解とハードウェアの発見
改造の第一歩は、デバイスの内部構造を理解することから始まります。
隠されたネジと強力な磁石:Lenovo製デバイスの分解の壁
このLenovo製デバイスの分解は、容易なものではありませんでした。底面には強力な接着剤で固定されたゴム製のカバーが貼られており、さらに本体自体も強力な磁石で結合されている箇所が見つかるなど、一般的なPCとは異なる構造上の工夫が凝らされていました。これは、専門家以外による安易な分解を防ぐための設計と考えられます。しかし、これらの物理的な障壁を乗り越え、内部へのアクセスに成功します。
Core i7-8550Uと謎の「Coral AIチップ」:内部スペックの検証
分解によって明らかになった内部のハードウェアは以下の通りです。
- CPU: Intel Core i7-8550U (第8世代、1.8GHz)。モバイル向けの低電力CPUであり、ビジネス用途には十分ですが、高性能なゲーミングには力不足であることが予測されます。
- メモリ: DDR4 SODIMMスロットを2つ搭載。初期状態では2GBの貧弱な容量でしたが、後に16GBのRAMに換装されました。
- ストレージ: SATA M.2スロットを搭載。初期状態は不明ですが、後にNVMe 1TB SSDに換装されました。
- 特殊チップ: Coral.ai Google LLC M.2アクセラレーター(デュアルEdge TPU)。これは、Googleが開発した機械学習(ML)の推論処理に特化した専用チップであり、各コプロセッサーが毎秒4兆回の演算(4 TOPS)をこなす能力を持つとされます。動画内では「400 FPS」という表現でその潜在的な性能が強調されていますが、これはAI推論性能であり、一般的なPCゲームのグラフィックス処理によるFPSとは異なることに注意が必要です。
特殊な電源供給の課題:PoEと19V入力の試行錯誤
このデバイスの起動には、一般的なPCとは異なる特殊な電源供給の課題が立ちはだかりました。公式のACアダプターは非常に高価であり、入手が困難でした。デバイスは19V(標準的なノートPCの電圧)と54V(Power over Ethernet、以下PoE)の2種類の入力を受け付けることが判明します。
PoEはイーサネットケーブルを通じて電力とデータを同時に供給する技術ですが、このデバイスのPoEポートは電力の「受給」ではなく「給電」側であることが判明し、通常のPoEスイッチからの電力供給はできませんでした。そのため、試行錯誤の末、19V電源供給用のピンを特定し、自作のケーブルで電力を供給するという、かなり難易度の高い方法で起動を試みることになります。
Chrome OSの壁を破る:ファームウェア改造への挑戦
ハードウェアの準備が整った後、次なる課題は、デバイスに搭載されたGoogle独自のChrome OSの制約を乗り越え、汎用OSを導入することでした。
Enterprise Enrollmentの罠:OSロックと開発者モードへの道
このデバイスは企業向けであるため、Googleの「Enterprise Enrollment(エンタープライズ登録)」によって厳重に管理されていました。これにより、ユーザーはデバイスのOS設定を自由に変更できず、一般的なChromebookのように簡単に開発者モードに移行することも困難でした。このロックを解除するためには、通常は回復モードからのOS検証の無効化(Control+D)や、特殊なボタンの押下が必要となります。しかし、それでもエンタープライズ登録の壁は厚く、完全な自由を得るにはさらなる手段が必要でした。
ファームウェア書き換えの要:ライトプロテクト解除の難題
汎用OS(WindowsやLinux)をインストールするためには、Chrome OSが動作している標準のファームウェアを、UEFI互換のカスタムファームウェア(Corebootをベースとしたものなど)に書き換える必要があります。しかし、Chromebookを含むChrome OSデバイスの多くは、セキュリティ上の理由からファームウェアに「ライトプロテクト(書き込み保護)」がかけられており、これを解除しなければ書き換えはできません。このライトプロテクトの解除が、今回の挑戦における最大の難関の一つとなりました。
自作デバッグケーブル「SuzieQ」とSPIチップ直接ショート:究極の手段
ファームウェアのライトプロテクトを解除するため、二つの異なる方法が試されました。
- 自作デバッグケーブル「SuzieQ」の利用: GoogleがChromebookのデバッグ用に公開している特殊なUSBケーブル「SuzieQケーブル」の仕様に基づき、自作を試みます。このケーブルは、マザーボード上のセキュリティチップ「CR50」と直接通信し、ライトプロテクトを制御するために使用されます。しかし、ケーブルの自作には細かな配線と試行錯誤が必要で、非常に困難を極めました。
- SPIチップの直接ショート: 最終手段として、マザーボード上の「SPIチップ」を物理的にショートさせる方法が用いられました。SPIチップはファームウェアが格納されているメモリであり、その特定のピン(通常はピン3と8)をはんだ付けで短絡させることで、ライトプロテクトを強制的に無効化するという、非常にリスクの高い「ゲーマーの裏技」です。この物理的な介入によって、ついにファームウェアの書き換えが可能となりました。
「SPIチップのショートは、デバイスの『脳みそ』に直接手を加えるようなものです。一歩間違えれば、デバイスは起動不能になるリスクがあります。」
念願の汎用OS導入:SteamOS (Bazzite) とWindowsでのゲーミング検証
ファームウェアのライトプロテクト解除に成功し、Coreboot UEFIファームウェアを導入した後、いよいよ汎用OSのインストールとゲーミング性能の検証が行われました。
Coreboot UEFIファームウェアの導入
MrChromebox.techなどのコミュニティが提供するCorebootベースのUEFIファームウェアをSPIチップに書き込むことで、このGoogle Meet専用端末は一般的なPCとして、USBドライブからの起動や各種OSのインストールが可能になりました。
SteamOS (Bazzite) でのゲーム体験:低解像度の世界
まず、ゲーミングに特化したLinuxディストリビューションである「Bazzite」(SteamOSのDeck UIをベースとしたFedora派生版)がインストールされました。期待を胸に人気タイトル「Counter-Strike 2」や「Team Fortress 2」が試されます。しかし、結果は芳しいものではありませんでした。
- Counter-Strike 2: 推奨設定では高と表示されたものの、実際のフレームレートは一桁台。720pに設定しても30 FPS前後が限界でした。最終的に、画質を最低限まで落とし、350pという極めて低い解像度(PlayStation 1レベルと評された)で、かろうじて30 FPS後半から60 FPSを記録する程度でした。AIボットを排除することで若干の改善は見られましたが、オンラインプレイでは厳しい性能でした。
- Team Fortress 2: こちらは比較的古いゲームであるため、40 FPS程度と「悪くない」性能を見せました。しかし、最新の3Dゲームを快適にプレイできるレベルには程遠い結果です。
Windowsでの挑戦:さらなる性能の限界
次に、Windows 10/11を導入し、さらにいくつかのゲームで性能がテストされました。
- Black Mesa: 非常に重いSourceエンジンゲームであり、マウスの動きに半秒の遅延が生じるほど低速で、13 FPS程度しか出ませんでした。
- Grand Theft Auto V: グラフィック設定を最低の800×600に落とすことで、30 FPS程度の「プレイ可能」な水準に達しました。しかし、720pでは性能が大幅に低下し、快適とは言えませんでした。最も低い640×480に設定すると60 FPSに達する場面もありましたが、画質は著しく損なわれる結果となりました。
- Far Cry 5: 最低設定の720pでも8 FPSという壊滅的な性能で、事実上プレイ不可能でした。解像度スケールを半分にしても、ほとんど改善は見られませんでした。
結論:Google Meet Compute UnitはゲーミングPCになれるのか?
技術的努力とゲーム性能の現実
結論から言えば、Lenovo Google Meet Series One Compute Unitは、ゲーミングPCとしては「不適」という結果に終わりました。電源問題の解決、ファームウェアのライトプロテクト解除、そしてOSの導入に至るまで、一週間以上にもわたる多大な技術的努力が費やされたにもかかわらず、その最終的なゲーム性能は「Xbox 360が笑うレベル」と酷評されるほど低いものでした。特に期待されたCoral AIチップは、AI推論に特化したものであり、3Dグラフィックス描画には何の貢献もしないことが明確になりました。
このデバイスは、高性能なGPUを搭載しておらず、CPUもモバイル向けの低電力モデルであるため、最新のPCゲームを快適に動かす能力は備えていませんでした。まさに「このハンマーが悪いドライバーであるのと同じくらい、ゲーミングには不適」という比喩が、その現実を最もよく表しています。
この挑戦が示すもの:特殊デバイスの新たな可能性
しかし、この挑戦は無意味だったのでしょうか?決してそうではありません。
このデバイスは、本来の用途に特化した設計がなされていますが、内部にはIntel Core i7プロセッサー、DDR4 RAMスロット、フルサイズのNVMe SSDスロット、複数のイーサネットポートといった、汎用PCとしても通用する優れたハードウェアを搭載していました。さらに、非常に静かに動作するという利点もありました。
この実験は、特殊用途に限定されたデバイスであっても、技術的な知識と探求心があれば、その潜在能力を引き出し、新たな用途へ転用できる可能性を示唆しています。ゲーミングには向かなくても、例えばカスタムのメディアサーバー、ホームオートメーションハブ、あるいは軽量な開発環境など、特定の用途においては優れた小型PCとして活用できる可能性を秘めているのです。
最後に
今回のLenovo Google Meet Compute UnitをゲーミングPC化する挑戦は、期待通りのゲーム体験は得られなかったものの、特殊なデバイスを深く理解し、その限界に挑む技術的探求の面白さを改めて教えてくれました。デジタルデバイスの裏側に隠された可能性に目を向け、既成概念にとらわれずに挑戦することの重要性を、この記事が読者の皆様に伝えることができれば幸いです。
もしあなたがPCの改造やChromebookハックに興味を持ち、さらに深く学びたいのであれば、関連する技術コミュニティへの参加や、ファームウェアに関する専門書を読むことをお勧めします。技術の世界は、常に探求と発見の連続です。今回の挑戦を通じて、あなたもまた、新たな技術の扉を開くきっかけを見つけてくれたら嬉しいです。
(注:本記事は、特定のYouTube動画の情報を基に作成されています。動画内では、セキュリティサービス「Aura」がスポンサーとして紹介され、デジタルセキュリティの重要性が語られています。)

