仮想通貨市場は、その目まぐるしい変動と将来性への期待から、常に世界の注目を集めています。特に最近では、ビットコインが17万ドルという新たな目標価格に到達する可能性が市場で話題となっています。
しかし、この予測は単なる楽観論に過ぎないのでしょうか？その裏には、M2マネーサプライの動向、米国経済の最新状況、そして加速する仮想通貨関連の法整備といった、多岐にわたる重要な要素が複雑に絡み合っています。
この記事では、これら三つの主要な潮流が仮想通貨市場にどのような影響を与えているのかを、専門的な前提知識がなくても深く理解できるよう、客観的かつ論理的に解説します。表面的な価格変動の裏側にある本質を見抜くことで、読者の皆様が市場の「今」をより正確に把握し、今後の展望を洞察する強固な土台を築けることを目指します。
ビットコイン17万ドル目標の根拠：M2マネーサプライが示す未来予測
このセクションでは、ビットコインがなぜ17万ドルという目標価格を設定されているのか、その背景にあるM2マネーサプライという経済指標との関係性を深掘りします。
M2マネーサプライとは何か？
M2マネーサプライとは、世界中の通貨の流動性、すなわち経済全体で流通しているお金の総量を示す経済指標の一つです。具体的には、現金、要求払い預金（当座預金など）、普通預金、定期預金、MMF（マネーマーケットファンド）などが含まれます。この指標は、経済活動の活発さや、中央銀行の金融政策の効果を測る上で重要な手がかりとなります。
ビットコインとM2マネーサプライの驚くべき連動性
過去のデータ分析によると、ビットコインの価格はM2マネーサプライの変動と非常に高い相関関係を示しており、しかも約100日前後の遅延をもって連動する傾向が指摘されています。これは、M2マネーサプライが増加し、世界中に「余った資金」が増えることで、その一部が新たな投資先、特にビットコインのようなデジタル資産に流れ込むというロジックに基づいています。
M2マネーサプライの増加は、経済全体のお金のプールが広がることを意味します。このプールが広がり、さらに溢れ出すと、その一部が株式や不動産といった伝統的な資産に加え、ビットコインのような新しいデジタル資産にも流れ込みやすくなる、と考えることができます。
M2マネーサプライとビットコインの連動は、仮想通貨市場でよく議論される「半減期サイクル」が、実はこのM2マネーサプライの変動に連動した結果なのではないか、という興味深い仮説も提唱されるほどです。過去のあらゆるデータを見ても、この二つの指標の間に強い連動性が見られるとされています。
現在のM2が指し示すビットコイン価格の目安
現在、世界のM2マネーサプライは史上最高値を更新し続けており、これは「世界中でお金が大量に供給され、市場の流動性が極めて高まっている」状況を示しています。このM2マネーサプライのグラフ上の位置が、過去の連動性を踏まえると、ビットコインの次の目標価格として17万ドル付近を指し示しているという分析がされています。
もちろん、これは過去の傾向に基づく予測であり、完璧に連動するわけではありません。M2マネーサプライが上昇していないにもかかわらずビットコインが上昇したり、あるいはその逆のケースも見られます。しかし、M2マネーサプライとビットコインの上昇が連動している時期は、トレンドが長く続く傾向にあるという過去のデータも指摘されています。
米国経済の最新動向と仮想通貨市場への影響
このセクションでは、最新の米国経済指標、特に雇用統計とISM非製造業PMIの動向が、利下げ期待や市場のセンチメントにどう影響し、ひいては仮想通貨市場にどのような波紋を広げているのかを解説します。
予想外の「リスクオン」を招いた最新雇用統計
最近発表された米国の非農業部門雇用者数は14.7万人増となり、事前の市場予想よりも強い結果となりました。また、失業率も予想外に低下し、雇用市場の堅調さが改めて示されました。
通常、雇用が強いと中央銀行（FRB）はインフレを警戒し、利下げを急がない姿勢を示すため、「利下げ期待の後退」はリスク資産（株式や仮想通貨など）にとってネガティブに作用し、「リスクオフ」（リスクを避ける動き）に傾くことが多いです。
しかし、今回の市場の反応は「リスクオン」（積極的にリスクを取る動き）でした。この背景には、トランプ氏の関税政策が経済にダメージを与えるのではないかという懸念が広がっていた中で、予想に反して経済や雇用が堅調に推移していることが確認されたため、「米国経済は強い」という楽観的な見方が市場に広がったことが挙げられます。
堅調さを示すISM非製造業PMIとイエレン財務長官の発言
製造業以外の経済活動を示すISM非製造業購買担当者景気指数（PMI）も50.8と1ポイント近く上昇し、活動の拡大を示しています。50を上回ることは、その分野の景況感が良いことを意味します。この指標もまた、米国経済の底堅さを裏付けるものとなりました。
一方で、イエレン財務長官は早期の利下げを求めており、7月のFOMC（連邦公開市場委員会）で政策金利が引き下げられなければ、9月にはさらに大幅な利下げが必要だと述べています。現在の市場では、9月のFOMCでの0.25%の利下げ確率は68%まで減少しており、依然として利下げ期待は後退している状況ですが、財務長官の発言は今後のFRBの金融政策決定に影響を与える可能性があります。
日経平均と日本の関税交渉の現状
こうした米国市場の動きを引き継ぎ、日本の日経平均株価は前日比で大きな動きを見せませんでした。現在、日本は米国との関税交渉が難航しており、トランプ氏の強気な姿勢も影響して、株式市場は保護主義的な動きに対する懸念が続いています。来週には90日間の追加関税の延長期限を迎えるため、この動向も市場の注目ポイントとなります。
加速する機関投資家の仮想通貨参入とアルトコイン市場の異変
このセクションでは、大企業が仮想通貨を自社の準備資産として組み入れる動きが加速している現状と、店頭取引（OTC取引）におけるアルトコインの存在感の高まりについて掘り下げます。これは、仮想通貨が単なる投機対象から、より基盤的な資産へと進化していることを示唆しています。
準備資産としての仮想通貨採用企業が続々登場
近年、多くの機関投資家や上場企業が、自社の財務戦略の一環としてビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を準備資産として保有する動きが顕著になっています。
- アンバーインターナショナル（Amber International）：この米国の上場企業は、37億円を調達し、仮想通貨準備金戦略を加速することを発表しました。すでに5月頃からビットコイン（BTC）、イーサリアム（ETH）、ソラナ（SOL）への投資を実施しており、今後はBNBやXRP、SUIへの展開も進めていると報じられています。
- シャープリンクゲーミング（Sharplink Gaming）：この米国のゲーム企業は、特にイーサリアムを積極的に購入しており、6月20日までの1週間で1.2万ETHを購入。現在の総保有量は18.8万ETHにも達するとされています。
- ビットマイマージョンテクノロジーズ（Bitmain Merging Technologies）とビットデジタル（Bit Digital）：これら2社も、イーサリアムを財務戦略の一環として保有する方針を新たに発表しました。
これらの動きは、仮想通貨が企業のバランスシートにおいて、伝統的な資産と並ぶ「価値貯蔵手段」や「成長資産」として認識され始めていることを示唆しています。
活況を呈するイーサリアム現物ETF市場の流入状況
機関投資家の参入は、イーサリアム現物ETF（上場投資信託）の市場にも顕著に現れています。直近の流入額は非常に大きく、過去半年間の中でも特筆すべき規模に達していると報じられています。これは、機関投資家からのイーサリアムへの注目度が着実に高まっている明確な証拠と言えるでしょう。
OTC取引でアルトコインが躍進：その実態と上位銘柄
機関投資家が大口取引を行う際によく利用するのが、OTC取引（Over-The-Counter取引）、いわゆる「店頭取引」です。これは、取引所を介さず、ブローカーなどを通じて相対で非公開に取引を行う形式で、市場に与える影響を最小限に抑えながら大量の資産を売買したい場合に活用されます。
最近のデータでは、このOTC取引におけるアルトコインの取引が顕著に増加している傾向が指摘されています。特に2025年上半期には取引が大幅に増加し、OTC取引高全体の16.7%をアルトコインが占めるまでになっています。これは、ステーブルコイン（価値が法定通貨に固定された仮想通貨）の取引高も含んだ中での数字であり、アルトコインへの大口投資家の関心が非常に高まっていることを示しています。
OTC取引で特に活発に取引されているアルトコインのランキングは以下の通りです。
| 順位 | アルトコイン |
|---|---|
| 1位 | ソラナ（Solana） |
| 2位 | ライトコイン（Litecoin） |
| 3位 | XRP（リップル） |
| 4位 | トロン（Tron） |
| 5位 | エイダ（Cardano） |
また、ステーブルコインの取引も増加しており、これは市場全体の拡大を示唆しています。米国が仮想通貨を推進する状況下で、取引量が増えていることは市場の健全な成長と捉えることができるでしょう。
しかし、一方でビットコインが11万ドルを超えられない背景には、これまでに保有していた個人投資家が一定量を売却しているという情報もあり、大口の買いと個人の売却が相殺し合っている現状も報じられています。
米国を仮想通貨のハブへ：注目すべき「暗号通貨週間」と主要法案
米国は、仮想通貨分野におけるリーダーシップを確立し、「世界のハブ」となることを目指して、規制緩和や新たな法案の立法に積極的に取り組んでいます。その中でも、特に注目すべき動きが「暗号通貨週間」です。
共和党が宣言した「暗号通貨週間」とは？
米国共和党は、2024年7月14日から18日を「暗号通貨週間」と宣言しました。この期間中に、仮想通貨に関する3つの主要法案を積極的に検討し、推進していく方針を明らかにしています。この動きは、米国のデジタル資産規制の方向性を決定づける重要な節目となる可能性があります。
市場構造法案：仮想通貨の証券か商品かの定義を明確に
「暗号通貨週間」で検討される法案の一つが、「仮想通貨市場構造法案」です。この法案の主要な目的は、これまで議論の的となってきた「仮想通貨が証券に分類されるのか、それとも商品に分類されるのか」という定義を明確にすることです。
- 米国では、証券はSEC（証券取引委員会）、商品はCFTC（商品先物取引委員会）がそれぞれ管轄しており、この分類が曖昧なために多くの仮想通貨プロジェクトが法的な不確実性に直面してきました。
- この法案が制定されれば、どの仮想通貨がどの規制当局の管轄下に入るのかが明確になり、業界の透明性と安定性が高まることが期待されます。
- 最近承認されたグレースケールのバスケット型現物ETFが一時的に再検討された件も、この法案の議論と関連している可能性が指摘されています。
ステーブルコイン法案：ジーニアス法案の行方
二つ目の重要な法案は「ステーブルコイン法案」、通称「ジーニアス法案」です。ステーブルコインは、その価値を米ドルなどの法定通貨に固定することで、仮想通貨のボラティリティ（価格変動の大きさ）を抑えたデジタル資産です。この法案はすでに上院を通過しており、下院での進展が期待されています。もし7月中に通過すれば、ステーブルコインの法的地位が確立され、その普及がさらに加速する可能性があります。
CBDCに関する法案：米国が目指す方向性
三つ目の法案は、中央銀行デジタル通貨（CBDC）に関するものです。世界各国でCBDCの開発が進む中、米国ではこれに反対する動きも強く、この法案はまさに「反CBDC」を目的としています。具体的には、米国内でのCBDCの全面的な禁止を目指す内容となっており、仮想通貨コミュニティにとっては歓迎される動きと言えるでしょう。これは、政府による中央集権的なデジタル通貨ではなく、ビットコインのような分散型デジタル資産を重視する米国の姿勢を示すものと解釈できます。
これらの法案が「暗号通貨週間」で具体的に議論され、進展することは、今後の仮想通貨市場の方向性を大きく左右する可能性があり、引き続き注目が必要です。
主要仮想通貨と貴金属・為替のテクニカル分析
このセクションでは、ビットコインやイーサリアムといった主要仮想通貨に加え、ゴールドやドル円の最近の価格動向を、テクニカル分析の視点から解説します。市場の現在地と、今後の動きの可能性を探ります。
ビットコイン：レンジ相場と生産ヒートマップが示す攻防
ビットコインは現在、約10万8,900ドル付近で推移しており、これまで続いてきたレンジ相場（一定の価格帯での横ばい）の上限に到達しました。一時11万ドルを突破する場面もありましたが、その水準を維持できていません。
- 生産ヒートマップ（Liquidation Heatmap）を見ると、約10万8,000ドル付近には「ロング（買い持ち）」している投資家の清算ポイントが集中しており、この水準を下回ると買いポジションの強制決済が連鎖的に起こる可能性があります。
- 一方で、約11万500ドルから11万2,000ドルにかけては「ショート（売り持ち）」している投資家の強い売り圧力が確認できます。これは、この水準を「戻り売り（価格が上昇したら売る）のチャンス」と捉えている投資家が多いことを示唆しています。
短期的には横ばいの動きが続く可能性もありますが、4時間足の移動平均線がゴールデンクロス（短期移動平均線が長期移動平均線を上抜ける買いシグナル）を形成し、全体的に上向きで価格を支えようとしているため、一時的に下落したとしても、再び11万ドルへの再挑戦となる可能性が高いでしょう。明確に11万ドルを突破できれば、その上には大きな上昇余地が広がると考えられます。今年の秋から冬にかけて、12万8,000ドル付近までの上昇が視野に入るとの分析もあります。
イーサリアム：底堅い動きと次なる上昇への期待
イーサリアムは現在、約2,559ドルで取引されており、移動平均線が密集していた価格帯を上抜けて推移しています。短期的な戻りの兆候も見られますが、下値では移動平均線がゴールデンクロスを形成しようとしており、全体的に底堅さが確認できます。
特に、約2,440ドル付近に強力なサポート帯（価格の下支えとなる水準）があり、ここが相場を支える環境となっています。この状況から、イーサリアムはここからさらに一段と上昇する可能性が高いと予想されます。
XRP：2.3ドルのレジスタンスと移動平均線の示唆
XRPは現在、約2.23ドルで推移しており、約2.3ドルのレジスタンス（価格の上昇を妨げる抵抗線）をまだ突破できていません。しかし、徐々にこの水準に向けて上昇を試みる動きが見られます。
日足レベルで20、50、100の移動平均線を上抜けており、今後これらの移動平均線がゴールデンクロスを形成することで、それに乗じてさらに上昇していく可能性も十分に考えられます。
UNISWAP：短期的な抵抗と長期的な統合トレンド
UNISWAPは現在、約7.35ドルで取引されており、これまで指摘されていた7.5ドルから8ドル付近の抵抗帯に上値を抑えられています。しかし、安値は継続的に切り上げており、一時的に価格が戻ったとしても、すぐに再び上昇を試みるでしょう。
最終的には移動平均線が追いつき、価格が収縮する中で、その後に一気に上にブレイクする可能性が高いと見られています。しばらくは三角保ち合い、もしくは横ばいの動きが続くことが予想されます。
ソラナ：ネックライン突破で大きな上昇の可能性
ソラナは現在、約152ドルで推移しており、152〜153ドル付近の抵抗帯で短期的に抵抗されています。テクニカル的には逆三尊（ヘッドアンドショルダーズ）のような形を形成しており、そのネックライン（トレンド転換の目安となるライン）が現在の価格帯である約153ドル付近に位置しています。
このネックラインを明確に突破できれば、20、50、100の移動平均線も上抜けることになり、相場の見方が大きく変わる可能性があります。その場合、大きな上昇に繋がる可能性が期待されます。
XDC：RSIダイバージェンスと長期トレンドの課題
XDCは現在、約0.060ドルで推移しており、0.058ドル付近の水平線を下限値として下落が止まっています。RSI（相対力指数）でもダイバージェンス（価格が下落しているにもかかわらずRSIが上昇するなど、指標と価格の動きが逆行する現象で、トレンド転換の可能性を示唆）を形成しているため、目先は反発する可能性が高いと見られています。
しかし、長期的な視点で見ると、高値・安値を切り下げる下落トレンドが終わったとは言えず、上値も重い状況です。一時的に上昇したとしても、その後の動きには慎重な判断が求められます。
ゴールド：史上最高値圏でのレンジ相場
ゴールドは現在、約3,342ドルで取引されており、史上最高値付近でのレンジ相場が続いています。中東の中間地点である約3,350ドル付近で推移しており、ここを明確に上抜ければ3,440ドル付近まで上昇する可能性がありますが、抵抗されれば3,200ドル付近まで下落する可能性もあります。現在は、様子見が必要な相場と言えるでしょう。
ドル円：利下げ期待後退とドル買い戻し
ドル円は現在、約144.31円で推移しており、これまでのドル売りが反転し、一気にドルが買い戻される動きが見られました。利下げ期待の後退が、ドルの買い戻しに繋がったと考えられます。
現在の価格はレンジ相場の中間地点にあり、どちらに動くか予測が難しい局面です。明確なトレンドが出るまでは、上値での売りや下値での買いを狙う戦略が有効となるでしょう。
結論：市場の「今」を読み解き、次なる波に乗るために
今日の仮想通貨市場は、ビットコインの17万ドル到達の可能性が語られるなど、楽観的なムードが広がっています。その背景には、世界的なM2マネーサプライの増加、予想以上に堅調な米国経済の動向、そして機関投資家による積極的な参入が挙げられます。
特に、米国で進む仮想通貨関連の法整備、すなわち「暗号通貨週間」での市場構造法案、ステーブルコイン法案、そして「反CBDC」を目的としたCBDC法案の議論は、今後の市場の透明性と安定性を大きく左右するでしょう。
これらの要素は単独で動くのではなく、相互に影響し合いながら市場全体を形成しています。表面的な価格変動に一喜一憂するだけでなく、その背景にあるマクロ経済の動向、大口投資家の資金の流れ、そして規制の進展といった、より本質的な要因を理解することが、市場の「今」を正確に読み解き、将来的な展望を予測する上で不可欠です。
ビットコインが11万ドルの壁を突破し、次の目標価格を目指すことができるのか、あるいは一時的な調整局面を迎えるのか。その鍵は、移動平均線が価格を追いつき、市場の方向性が明確になる時期、そして来週の関税政策や「暗号通貨週間」での法案の進展に注目が集まるでしょう。
仮想通貨市場のダイナミズムは、私たちに常に学習と分析を求めます。この記事が、読者の皆様がこの複雑で魅力的な市場を深く理解し、次なる学習ステップに進むための確かな土台となることを願っています。これからも信頼できる情報源から最新の情報を収集し、自身の知見を深めていくことが、この変化の激しい市場で成功するための鍵となるでしょう。
